ヘルスケア × ITが注目される背景
日本は急速な高齢化で2025年には国民の3人に1人が65歳以上になると予測されています。健康的に生活できる年齢の上限として「健康寿命」という言葉も生まれました。健康寿命の延伸のニーズが高まっているなか、AI、ビッグデータ、クラウドなどのIT技術を使ったヘルスケアへの取り組みが注目されています。
ITを用いたヘルスケアの取り組みの一例を、以下にまとめました。
- 医療機関:IT技術の導入により、電子カルテや遠隔診療システムの普及が急速に進んでいます。これにより、患者情報の一元管理や医師間での迅速な情報共有が可能となり、診療の質が向上しています。特に、高齢者や通院が困難な患者にとっては、自宅から診療を受けられるという大きなメリットがあります。
- 製薬会社:AIやビッグデータを活用することで、新薬開発のプロセスが飛躍的に効率化されています。シミュレーションによる薬効評価や臨床データの高速解析が進み、開発期間の短縮や副作用の早期発見も可能に。ITは製薬業界の競争力強化に直結する武器となっています。
- フィットネス業界:スマートウォッチや健康管理アプリなどのウェアラブルデバイスが普及し、日常的に健康状態を可視化できるようになりました。これにより、利用者自身の健康意識が高まり、予防医療の普及にもつながっています。
- 予防医学:IT技術は、病気になる前に兆候を捉える「予防医学」の分野でも力を発揮しています。リアルタイムでの健康状態の把握や、ロボットによる生活支援技術の進化により、高齢者のQOL(生活の質)向上や介護負担の軽減が期待されます。
ヘルスケアIT分野に関する経済産業省の取り組み
経済産業省が取り組んでいる主な内容は、以下のとおりです。
- 医療関係者と企業の協力促進:経産省は、新たなヘルスケアサービスの創出に向けて、企業と医療従事者の連携を積極的に推進しています。現場のニーズに基づいたサービス開発を可能にし、実用性の高いソリューションの実装を後押ししています。
- 当事者参画型の開発モデルの拡大・普及:認知症などを対象とするヘルスケア製品の開発プロセスには、当事者自身が参加する仕組みを導入。このアプローチは、使い手に寄り添った設計や、真に必要とされる機能の可視化を可能にします。
- 心の健康保持を支える基盤整備:企業におけるメンタルヘルス対策の一環として、睡眠行動療法アプリや従業員教育の導入支援も行っています。特に管理職の理解促進やストレスケアの実践支援は、職場全体の健康度を底上げする鍵となっています。
- 「Healthcare Innovation Hub」の設置:企業や研究者を対象に、支援と連携をワンストップで提供する拠点が整備され、迅速なマッチングと開発の促進を可能にする環境が構築されています。これにより、新たなアイデアを社会実装へとつなぐ「橋渡し」の役割が果たされています。
- AMEDによる研究開発支援:AMED(日本医療研究開発機構)との連携により、資金提供や技術支援が活発に行われています。これにより、ベンチャー企業や研究機関による先進的なプロジェクトが、持続可能な形で社会に浸透するよう促進されています。
4. 予防医学:リアルタイムで健康を守る次世代技術
IT技術は、病気になる前に兆候を捉える「予防医学」の分野でも力を発揮しています。リアルタイムでの健康状態の把握や、ロボットによる生活支援技術の進化により、高齢者のQOL(生活の質)向上や介護負担の軽減が期待されます。
ヘルスケアとITが融合するメリットとは?
ヘルスケアとITの融合によって得られるメリットは、以下のとおりです。これらの利点を通じて、医療や健康管理の分野でITがどのように貢献できるのかを詳しく見ていきましょう。
情報共有がしやすくなる
電子カルテやEHR(電子健康記録)を活用すると、スピーディーかつ正確な患者情報の共有が可能です。患者の診療履歴や検査結果を一元管理することで、医師間でリアルタイムでの情報共有が可能になり、重複検査や投薬ミスを防ぐことができます。
とくに、救急時に他の医療機関と連携する際に、患者の過去の病気・怪我の履歴やアレルギー情報にすぐにアクセスできるのが大きなメリットです。
治療の質が高まる
IT技術の活用により、画像診断や病理診断の精度が飛躍的に向上しています。膨大な医療データを解析すれば、微細な異常を早期発見し、より適切な治療ができます。新薬開発や新しい治療法の発見にもつながり、個別に最適化された医療の実現も可能となるでしょう。
遠隔診察・治療が可能になる
オンライン診療システムの普及により、患者は自宅にいながら医師の診察を受けられるようになりました。高齢者や身体的な制約がある患者にとって、通院の負担が大幅に軽減されるのがメリットです。
また、ウェアラブルデバイスを併用することで、健康データがリアルタイムで医師に送信されるため、より正確な診断と適切な治療が可能になります。
ヘルスケア × ITサービスの事例
ヘルスケアとITが融合したサービス事例として、以下の4つを紹介します。企業や個人でも活用できるものが含まれているため、どのような事例があるのかを把握し、日常生活や業務への応用を検討してみましょう。
1. 健康管理リストバンド「Fitbit」
Fitbitは、歩数・心拍数・睡眠時間・消費カロリーなどをリアルタイムでモニタリングできるウェアラブルデバイスです。ユーザーはFitbitで日々の活動や健康状態を把握でき、より健康的なライフスタイルを意識できるようになります。
また、最大2,000名まで参加可能なグループ機能により、チーム単位での健康増進活動も可能です。企業の健康経営施策として活用し、従業員の健康が維持されれば、生産性向上にもつながるでしょう。
2. KDDI株式会社の自宅でできる血液検査「スマホdeドック」
スマホdeドックは、自宅で簡単に血液検査ができるセルフチェックサービスです。指先からわずかな血液を採取するだけで、医療機関と同等の精度で14項目にわたる検査が可能です。一例として以下のような項目を検査できます。
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3. マイクロソフトの医療特化型AIソリューション「Azure Health Bot」
Azure Health Botは、医療機関向けに設計されたAI搭載のチャットボットおよびバーチャルアシスタントを構築するためのサービスです。医療機関は患者からの問い合わせ対応をボットで一部自動化することで、スタッフの負担軽減と重症患者の素早い発見が実現できます。
コロナ禍には、世界中の医療機関がこのボットを利用して感染リスクのスクリーニングや情報提供を行い、医療従事者の負担軽減に貢献しました。
4. 睡眠ゲームアプリ「Pokémon Sleep」
Pokémon Sleepは睡眠データを活用して、健康的な睡眠習慣の形成を促すゲームアプリです。スマホを枕元において眠るだけでアプリがデータを計測し、睡眠の質や時間に応じて異なるポケモンの寝顔に出会えます。
ゲームと健康管理を融合させた新しいアプローチにより、楽しみながら規則正しい睡眠習慣を身につけられます。
ヘルスケア × ITは今後どうなる?
ヘルスケア分野におけるIT活用の今後について、以下のポイントから解説します。ヘルスケアとITの融合によってどのような未来が描かれるのか、その展望を把握し、今後の健康管理のあり方を見通していきましょう。
高齢化に伴い拡大していく
日本だけでなく、世界でも高齢化は進んでいます。市場調査およびコンサルティング企業であるFortune Business Insightsによると、世界のヘルスケアIT市場は2023年に2,780億米ドル規模でしたが、2032年にはその3倍以上となる9,812億米ドルに達すると予測されています。また、日本市場についても、2021年から2029年にかけて約2.2倍に拡大すると見込まれています。
高齢化社会に伴い、介護や医療費の負担を減らすためにも、健康寿命へのニーズはますます高まっていくと見られます。
疾患の発見と治療が早期に可能になる
AIと医療ビッグデータの解析技術の進歩により、疾患の早期発見と適切な早期治療が可能になります。具体的には、以下のような技術開発や取り組みが進められています。
- リスク検出技術:血液1滴でがん・心臓病のリスクを高感度検出
- 医療ビッグデータ解析(AI・機械学習):糖尿病・生活習慣病リスクを高精度で予測
- 遠隔モニタリング・郵送検査:遠隔地にいる患者の健康状態をデータ受信や郵送検査により確認し、迅速に対応
- 早期発見・早期治療の実現は、医療費の削減と生活の質の向上に大きく貢献するでしょう。
セキュリティの課題がより重要になる
医療データの機密性と重要性を考慮すると、さらなるセキュリティ対策の強化は急務です。サイバー攻撃やデータ漏えいは患者の治療に直接的な影響をおよぼす可能性があり、最悪の場合は生命に関わります。
医療機関では電子カルテやIoTデバイスなど、多くのシステムが相互接続されています。そのため、一度攻撃を受けると広範囲に影響する危険性があります。セキュリティ対策はより重要になるでしょう。
「ヘルスケア × IT」を賢く活用しよう
高齢化社会に向けて、健康維持はますます重要性を増しています。電子カルテの導入やウェアラブルデバイスの活用などヘルスケアとITが融合することで、より効率的に人々の健康管理ができるようになります。しかし、これらの技術を活用する際には、サイバーセキュリティのリスクを十分に考慮する必要があります。完璧な技術は存在しないことを認識し、情報がどのように使用され、どこに保存されるのか、そして安全に管理されているかを常に意識することが大切です。慎重なアプローチと適切な対策を講じることで、ヘルスケア分野で安全かつ効果的なITの活用が実現されるでしょう。
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